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はてなブックマーク - 【第5回研究会】「被災地情報発信の形:シャンティ国際ボランティア会(SVA)の事例」

2月23日の19時~21時、かながわ県民活動サポートセンター11階で、シャンティ国際ボランティア会(以下、SVA)広報課長・鎌倉幸子さんをゲストに迎え、参加者約15名で情報活用モデル研究会「被災地情報発信の形:シャンティ国際ボランティア会(SVA)の事例」が行われた。鎌倉さんのプロフィールはこちら

SVAは1981年に設立されたアジアの途上国支援活動(教育・文化支援)を行う公益社団法人。阪神淡路大震災時には5年間に渡って被災地の支援を行った。
東日本大震災でも3月~6月は物資の配布、炊き出し、がれき撤去、お茶会など精力的に活動。現在は「いわてを走る移動図書館プロジェクト」を展開している。
今回の研究会では鎌倉さんに、震災直後の情報発信の振り返りと「いわてを走る移動図書館プロジェクト」の発端や現状についてのお話を伺った。

阪神の教訓「壁を作っているのは誰だ?」
冒頭で鎌倉さんは阪神淡路大震災時の経験について触れた。「阪神淡路大震災が起きたとき、SVAが『国際ボランティア会』であるがゆえに「なぜ日本でやるのか?」という議論が起こった。その結果、「壁を作っているのは団体自身。その壁を乗り越えていこう」と意見がまとまり、阪神淡路大震災の支援を決めた。「結果として、資金援助期間を合わせると5年間、被災地の支援を続けることとなりました」と鎌倉さん。
阪神でのこの姿勢が、311の支援にも結び付いている。「阪神大震災以降、SVAでは『緊急救援室』という部署を設け、震災や水害が起こるたびにスタッフの派遣を行っています。今回の東日本大震災では宮城県気仙沼市と岩手県遠野市に事務所を開設しています」

震災翌日からの情報発信
では311直後、SVAはどのような動きをとったのか。鎌倉さんは時系列に沿って、SVAの情報発信の動きを詳しく話してくれた。
「11日の時点で、スタッフの安全確認や情報収集をしながら、担当責任者と緊急救援担当で会議をし、東日本大震災の支援を決定しました。12日にはブログで支援活動の意思表示し、14日に副会長が現地入りしました。副会長には『携帯電話のアンテナが一本でも立ったらとにかく電話してください。写メでもいいので送ってください』とお願いし、15日から副会長の情報をもとにリリースを書き、現場の声を発信しました」
(当時のリリース

SVA鎌倉幸子さんと、参加者

SVA鎌倉幸子さんと、参加者

「バランスを崩してはいけない」
震災直後は津波の恐れや人災対策から、現地へのスタッフ派遣の規制も厳しかったそう。15日に派遣されるはずだった東京のスタッフ2人も、当日までに許可が下りなかった。鎌倉さんは「期待もあった中で何も情報発信しないのは良くないと思い、ブログ『明日、スタッフが被災地へ向かいます』という情報と共に、現地へ向かうスタッフ(阪神淡路の支援も担当)のインタビュー動画を載せました」と当時の苦労を振り返った。
また「現場のスタッフは色んな物を見て、聞いて、感じている。電話で話を聞いて、それを冷静に5W1Hに落としていくのは本当に難しかった。スタッフが遺体を発見した時などは、現地で家族を亡くした方の話などを伺っているだけに、電話越しにも話に熱がこもっていた。ただ、出せる情報と出せない情報があり、その点で『東京の冷静さ』と『現場の熱』のバランスを崩してはいけないと感じました」と、現場から離れた目線の大切さについても触れていた。

「今だからこそ図書館を」
現在は「いわてを走る移動図書館プロジェクト」を実施しているSVA。衣食住とは離れた「本」での支援プロジェクトが、震災直後にどのように誕生したのか。
SVAでカンボジアの図書館事業に長らく関わっていた鎌倉さんも「震災直後、『図書館はまだ(需要が)ないだろう』と思っていた」と言う。
「そんな中で3月に図書館を再開させていた気仙沼図書館を訪ねて、図書館員の方に話を伺った。その図書館員さんの『こんな時だからこそ、今出合う本が子供たちの一生の支えになると信じています』という言葉で『今だからこそ図書館を』と思えました」。

「いわてを走る移動図書館プロジェクト」の説明をする鎌倉さん

「いわてを走る移動図書館プロジェクト」の説明をする鎌倉さん

「本を選ぶのがこんなに難しいとは」
その後の岩手出張で多くの図書館関係者と会ううちに、「本の文化を途切れさせてはいけない」という思いを強くし、「移動図書館プロジェクト」を実現させていった鎌倉さん。その過程で改めて「本を選ぶのがこんなに難しいとは…」と考えさせられたそうだ。
「本来は読む人に勇気を与える『冒険もの』でも、その時点では困難を乗り越えていく物語の『押しつけ』になってしまう。逆に、東京の目線では考えられないが、いわゆる『震災時の(報道をまとめた)写真集』のリクエストも来ている。全員ではもちろんないが、自分たちの町がどんな状況なのか知りたい、というニーズも確かにある」
SVAの移動図書館では利用者からのリクエストを受け付けており、リクエストされた本から表に出てこなかったニーズが見えることもよくあるそうだ。

カンボジアで聞いた言葉が東北でも…本の持つ普遍性
鎌倉さんは、今回のプロジェクトと自身のアジアでのボランティア体験が重なって、「本の持つ普遍性」を考える機会も多いという。「食べ物は食べたらなくなるけど、本は読んだら記憶が残ります。だから本を子供たちに届けていきたいんです」という気仙沼の図書館員の方の声を聞いて、鎌倉さんは以前カンボジアの女の子から聞いた言葉を思い出したという。「お菓子は食べたらなくなるけど、絵本は何回でも読めるから好き」。他にもアフガニスタンの子から聞いた「絵本を読めば楽しい気持ちになれて、夜ぐっすり眠れるんだ」という言葉と、岩手県山田町の方の「夜眠れない時に本をよく読むんだよね」という声もオーバーラップした。国や文化に関係なく、本の持つ普遍性があるのではないかと、日々感じているそうだ。

「続ける覚悟はありますか?」約束を守るということ
移動図書館を始めるにあたって、沿岸部の図書館員の方に言われた言葉が、今でも鎌倉さんの胸に残っている。「『(続ける)覚悟はありますか?』と聞かれました。移動図書館というのは『約束』なんです。1回でも休んでしまえば、『2週間に1回同じところを回る』という住民との約束を破ることになるんです」
くじけそうになった日もあったという。「昨年9月に台風12号が上陸した日、『(今日は行くのが)辛いなあ』という気持ちはありました。それでも『約束』を守って現地に入ったことが、移動図書館がブレイクのきっかけになったんです。現地の人に『さすがに来ないだろう』と思われるような日にも赴いたことによって、信頼が得られたみたいです」。
また、「約束」について、さらにこんな話も。「仮説を回っていると『今はまだ本を読む気になれない』という人も当然いる。そんな中で、移動図書館の団らんスペースにはくるけれど、本は借りていかなかったおじいさんが、2、3か月経って初めて本を借りていってくれたこともあった。『一回いったら終わり』ではなく、くり返しくり返し約束を守っていくことが大切。そういった心の変化とも向き合いながらやっていきたい」。

「一番怖いことは忘れられること」
研究会の最後に、鎌倉さんは阪神淡路大震災時の神戸事務局長が震災から15年立った2010年、SVAの広報誌に寄稿した言葉を引用した。
「外部から待被災地の苦悩が見えにくくなる中、街全体がブラックホールに吸い込まれていく。まるで出口のないトンネルに入っているようだった」(広報誌シャンティ「道」より抜粋)
鎌倉さんは更にこう続けた。「去年の6月、ある会議に出席していた釜石出身の方が『一番怖いことは忘れられることだ』とおっしゃっていた。これからが勝負。『今回は長期化するな』という覚悟を持ってやっています。移動図書館の約束も、被災地の図書館が復興するまで続けたいと考えています」。

SVAの情報発信についての話だけでなく、現地で調査した際の体験や、現地の人に直接聞いた話など印象的なエピソードで溢れた、濃密な研究会となった。

(編集チーム 森田)

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